絶景と泊まる

川が刻んだ岩峰、人が穿った洞門―耶馬溪をたどる1泊2日

 

一目八景では、どのような岩峰を一度に見渡せるのでしょうか。そして、谷を囲む岩壁は、どのようにできたのでしょうか。大分県中津市の深耶馬溪では、一目八景の展望台に立つと、山移川の流れる谷を挟んで、形の異なる峰が周囲に立ち上がります。

初日は一目八景で岩峰と川の位置を見比べ、深耶馬溪に泊まります。翌日は本耶馬渓へ移り、山国川沿いの競秀峰と、その岩壁の裾を掘って通した青の洞門を歩きます。

山国川が溶岩台地を削った耶馬溪

文化庁の日本遺産「やばけい遊覧」では、耶馬溪を、山国川が溶岩台地を深く侵食してできた渓谷として紹介しています。山国川とその支流が台地を削った地形は、本流沿いの競秀峰にも、支流の山移川に沿う深耶馬溪にも見られます。

谷底へ目を移すと川があり、そこから見上げると森林の上や間に岩肌が現れます。川と岩峰の高低差を見比べると、台地を刻んだ谷の深さが分かります。初日と翌日で川が変わるので、岩の連なり方と川との距離にも目を向けてみましょう。

2017年4月に日本遺産に認定された「やばけい遊覧~大地に描いた山水絵巻の道をゆく~」は、岩峰や渓谷を道や洞門でつなぎ、人が遊覧してきた歴史を伝えています。中津市と玖珠町では、2026年2月にこの日本遺産のモデルルートも整備されました。

深耶馬溪の中心・一目八景

一目八景(ひとめはっけい)は、中津市耶馬溪町大字深耶馬にあります。展望台からは、一つの谷を取り囲む岩峰を、向きを変えながら見渡せます。まず川が流れる谷底を見て、そこから両側の斜面へ視線を上げると、峰の間にある谷の奥行きがつかめます。

車は深耶馬溪公共駐車場へ。中津市の一目八景案内では、駐車場から展望台まで徒歩約5分、見学の目安は30分~1時間です。駐車場は無料で、普通車等256台、バス11台です。24時間利用でき、定休日はなく予約はできません。駐車場と展望台下にトイレがあります。

一度に見える八つの岩峰

群猿山、鳶ノ巣山、嘯猿山、夫婦岩、雄鹿長尾の峰、烏帽子岩、仙人岩、海望嶺。一目八景の名は、この八つの岩峰を一か所から望めることに由来します。

峰の名前を確かめながら、先端の形や、岩壁がどこまで続いているかを見比べてみましょう。岩肌が続く面と、木々に覆われて輪郭が柔らかく見える斜面があります。周囲へ視線を巡らせると、八つの峰が谷を囲んでいることが分かります。

山移川と岩峰の間を歩く

展望台で谷全体を見たあとは、時間と足元の状態に合わせて山移川周辺を歩きます。中津市は川向こうの遊歩道も案内しています。川に近い位置から見上げると、展望台ではひと続きに見えた岩壁と木立の間に、高低差があることに気づきます。

深耶馬溪には麗谷探勝道もあります。日本遺産では、一枚岩の川底に淵と滝が続くU字型の谷を歩く上級者向けの道として紹介しています。歩く場合は通行状況を確かめ、経験や装備に合わせて別に計画してください。この旅程は展望台とその周辺の散策で組めます。

2026年秋の紅葉と「ひさしもみじ」

色づきは年によって異なり、例年は11月を中心に進みます。大分県の2026年版観光案内では10月下旬~11月中旬、中津市では例年11月中旬~12月上旬が目安です。日程を決める際は、中津耶馬渓観光協会の紅葉情報で直近の状況を確認してください。葉が色づくと、森林と露出した岩肌の境界を見分けやすくなります。

2026年11月6日(金)~12月6日(日)の17:00~21:00には、ひさしもみじのライトアップが予定されています。会場は深耶馬溪公共駐車場の手前、県道28号沿いの約100mです。開催情報は中津市の11月イベント案内で確認できます。

一目八景そのものはライトアップされない

照明が当たるのは駐車場付近のひさしもみじの並木です。一目八景の岩峰や展望台はライトアップの対象外です。展望台付近と駐車場からの歩道は照明が少ないため、岩峰と川を見比べる散策は明るいうちに済ませましょう。

深耶馬溪で泊まる1泊2日

1日目は中津・玖珠方面から車で深耶馬溪へ。公共駐車場から一目八景展望台へ歩き、時間があれば山移川周辺も散策して宿に向かいます。ライトアップは、夕食と最終チェックインの時刻を先に確認し、時間に余裕があれば立ち寄りましょう。

2日目は深耶馬溪の宿から本耶馬渓へ。車を青の洞門周辺の利用可能な駐車場に置き、山国川沿いから競秀峰を見たあと、案内に従って青の洞門を歩きます。帰路の車の経路は、洞門を通らないように組んでください。

公共交通を使う場合、観光協会の2026年10月1日改正案内では、一目八景の最寄りは「深耶馬溪温泉」で土日祝日は運休です。競秀峰・洞門側には「青の洞門」停留所があります。乗り継ぎや停留所の位置は観光協会の路線図・時刻表で確認してください。

一目八景を見たあとは、深耶馬溪で泊まる

展望台からの移動を短くするか、温泉からも岩峰を眺めるか、夕食をゆっくり楽しむか。初日の過ごし方に合わせて、深耶馬溪の3軒から選べます。

耶馬溪温泉 鹿鳴館|一目八景の近くで温泉へ

一目八景の近くに泊まり、散策後の移動を短くしたい人に向く宿です。所在地は中津市耶馬溪町深耶馬3152-4。楽天トラベルでは、弱アルカリ性単純泉の源泉かけ流しと、貸切風呂2か所を案内しています。

宿の駐車場は30台で無料、予約不要です。楽天トラベルの基本案内では最終チェックインは19:00。ライトアップへ立ち寄る日は、予約したプランの到着期限と夕食開始時刻を先に確認しましょう。

耶馬溪温泉 鹿鳴館 楽天トラベル

耶馬溪温泉 鹿鳴館

一目八景のそばで、散策と温泉を組み合わせる宿。

耶馬渓山荘 えぼしや|岩峰を眺める展望風呂

展望台で見た一目八景を、宿の温泉からも眺めたい人に向きます。楽天トラベルでは、一目八景を望める展望風呂と、源泉かけ流しの天然温泉を案内しています。

岩峰の輪郭を見ながら入浴したい場合は、日が暮れる前に宿で過ごせるよう初日の散策時間を決めておきましょう。食事付きで泊まる場合は、利用するプランの献立と夕食時間を確認してください。

耶馬渓山荘 えぼしや 楽天トラベル

耶馬渓山荘 えぼしや

一目八景の岩峰を望む展望風呂がある山荘。

折戸温泉 小さなお宿 つきのほたる|少室数の宿で夕食を

折戸温泉にある全4室の宿です。散策のあと、部屋数の少ない宿で食事をゆっくり楽しみたい人に向きます。宿の公式案内では地元の食材を使った創作料理を紹介しており、楽天トラベルには深耶馬溪の「ほたる米」を使うプランもあります。

2026年には客室「月の間」が改装されました。客室設備や食事内容は選ぶ部屋・プランによって異なります。送迎について、楽天トラベルでは鴫良温泉前バス停まで、6名までの事前予約制と案内しています。利用を希望する場合は、予約前に宿へ確認してください。

折戸温泉 小さなお宿 つきのほたる 楽天トラベル

折戸温泉 小さなお宿 つきのほたる

折戸温泉にある全4室の宿。地元の食材を使った夕食を楽しめます。

翌日は競秀峰と青の洞門へ

深耶馬溪で山移川沿いの谷を見た翌日は、本耶馬渓の山国川へ。まず川沿いの見通しのよい場所から、岩峰の列とその裾にある洞門の位置を確かめます。そこから洞門へ歩くと、自然の岩壁と、その中に人が通した道を近い距離で見比べられます。

約1km続く競秀峰の岩峰群

競秀峰(きょうしゅうほう)は山国川の右岸にあります。日本遺産の構成文化財資料によると、一の峰、二の峰、三の峰、恵比須岩、大黒岩、妙見岩、殿岩、釣鐘岩、陣の岩、八王子岩などが、川に沿って約1km連なります。青の洞門があるのは、その岩峰群の裾です。

競秀峰の名は、1763年にこの地を訪れた江戸・浅草寺の金龍和尚が付けたと伝わります。川に沿って視線を動かすと、峰の高さや岩壁の張り出し方が一つずつ変わっていきます。

2026年の青の洞門は徒歩通行可・車両通行止め

2024年11月以降の落石などを受けて規制されていた青の洞門は、2026年4月1日から歩行者に限り通行可能です。一部の歩車道は通れないため、現地の案内に沿って曽木側の手掘り洞門へ迂回します。中津市の歩行者通行案内で経路を確認してください。

車両の通行止めは2026年11月4日確認時点で継続中です。2026年8月に別の箇所で新たな落石が確認され、市は安全対策を検討しています。出発前に中津市の車両通行止め案内と現地の誘導を確認してください。

中津市の解説では、禅海和尚は資金を集め、石工とともにノミや鎚で岩を掘り進め、30年余りを経て1764年に洞門を完成させました。菊池寛の『恩讐の彼方に』は、この洞門を広く知らしめた小説です。掘削の経緯は中津市の青の洞門の解説でたどれます。

地形に人の道が重なった耶馬溪

溶岩台地を川が削り、山移川の谷には一目八景の八つの岩峰、山国川沿いには競秀峰の岩壁が残りました。その岩壁の裾を穿ち、人が通れる道をつないだのが青の洞門です。

一目八景で谷底から峰までの高低差を眺め、翌日に競秀峰の裾を歩くと、同じ耶馬溪でも川と岩の位置関係が変わります。川が刻んだ地形に、人がどこを選び、どう道を通したのか。二つの谷をたどると、その違いが見えてきます。